アライグマ提督の艦これ日記

ゲーム、艦これのプレイ日記を小説にしたものです。

鎮守府 人事記録簿 1




○ 提督


当鎮守府最高指揮官。


哺乳綱食肉目アライグマ科アライグマ属に分類される哺乳類。


元日本皇国空軍中佐でトップエース。当時のTACネームはラスカル。

東京湾解放作戦において東京沖で被撃墜、脱出が遅れた為に重傷を負い、後戦死…と公式記録にはある。


飛行機をこよなく愛し、深海棲艦をとことん嫌う空軍軍人の鏡。





○中尉


鎮守府最高参謀。


日本猫。オスでは珍しい三毛猫。


元日本皇国海軍中尉。ミサイル駆逐艦「さわゆき」乗組員。

第二次日本海海戦において戦死…と公式記録にはある。


キャットフードも食べれるが、やはり普通の魚が好き。最近ますます猫らしくなって、本人は複雑な気持ち。





○吹雪


初期艦で書記艦で秘書艦。鎮守府立ち上げから提督を支える。


吹雪型一番艦。サボ島沖海戦にて沈没。


元都内の女学生、海軍への憧れから艦娘に志願した。活発で正義感がありクラスの中心的存在だった…と公式記録にはある。


提督がアライグマで正直驚いたが、すぐに馴れた。むしろ人間でなくて良かったと思う毎日。

第1章 提督が鎮守府に着任するようです

「中佐! しっかりしてください! 中佐!」


男の耳元で誰かが呼び掛ける。声は聞こえるのだが意識が朦朧とし、誰なのかは分からない。


「残念だが、これではもう…」


「ふざけるな!この人は人類の希望なんだ!死んだらいけないんだ!」


「そうだ。この男にはまだ死んでもらっては困る」


突如現れた黒いスーツの男は周りを黙らせ、意識はあるのだろう? と医官に確認する。


「初めまして中佐。何が起こっているのか分からんだろうが、一方的に話させて頂く」


スーツの男は先の作戦は失敗したこと。脱出が一瞬遅れ、片腕片足を失う重症を負ったこと。そしてこのままだと確実に死ぬであろうということを伝えた。


「しかし君のような優秀な人材を、パイロットとしてだけでなく戦術的判断に優れた人材を失うことは我が軍にとって大きな損失なわけだ。そこで君には死んでからも人類のために戦ってもらうことになった」


運び出せ、とスーツの男は引き連れてきた部下たちを部屋に入れ、瀕死状態である男を連れて行く。医官や仲間が止めようとするが、武装した彼等にあっさりと押さえられ、このことは口外しないように言われる。


「な…にを…」


「ああ、まだ口はきけたのか。安心したまえ。悪いようにはしない。だから今は眠っておけ」


意識が遠退き、仲間の声が聞こえなくなり、やがてなにも見えなくなった。



次に男が意識を取り戻したとき、そこは病院のような施設であることがわかった。白衣を着た人々が忙しそうに歩き回っている。


「調子はどうだ」


「順調です。数値は全て正常、拒絶反応も見られません」


「本体は?」


「完全に心配停止、5分前に死亡が確認されました」


「どうだね中佐、意識があれば起き上がれると思うが…」


目を覚ました男は体を動かす。手足はついているらしい。しかし違和感がある。まるで手足が短くなったような…


「なんだ…これは」


男の体は人間ではなかった。狸、あるいはアライグマか。いずれにせよ男はなにがなんだか分からなかった。


「俺は…夢でも見ているのか?」


「紛れもない現実だよ、中佐。君は人間の体を捨て、その体で生きていくことになったのだ。どのみちあの体では生きることなどできなかった」


「艦娘」というのを聞いたことはあるか、とスーツの男は言う。深海棲艦に対抗する為に産み出された技術で、既に沈んだ軍艦の魂を人間に宿らせ、艤装と呼ばれる武器で戦う少女たちのことである。突如生み出されたこの技術はまだ謎が多かったが、どういうわけか深海棲艦に対しては非常に効果があり、運用が始まっている一部の部隊では大きな戦果をあげているらしい。その技術を応用することで、人間の魂を動物に宿らせることにも成功していた。


「だからと言って、こんな姿でこれから生きて行けるか! こんなことならいっそ殺してくれれば…」


「言っただろう中佐。君を失うことは我が軍にとって大きな損失だと。本人の意思に関係なく、君にはまだ活躍してもらわねばならんのだ」


仕事の話をしよう、とスーツの男はいくつかの資料手渡した。


「君には艦娘の管理、運用を命ずる。対深海棲艦の専門部隊だ。所属は海軍となってしまうが、大したことではないだろう。すでに案内人を呼んであるから、詳しいことは彼に聞いてくれ。以上だ。反論は許さん」


それだけ言うとスーツの男は去っていった。部屋を出る直前に「すまんな」とだけ言い残して。


彼と入れ替わるように今度は一匹の猫が入ってきた。しかしこの猫、海軍の制服を身にまとい、手にはいくつかの試料を抱えている。


「初めまして提督。私があなたの案内人…おっと、案内猫です」


男は呆気にとられた。まるで漫画の世界にでもいるような感覚だった。二匹の動物が人間と同じように話し、同じように動いているのである。


「提督、と呼んだか?」


「はい。貴方は最早空軍中佐ではありません。海軍所属で艦娘を運用する海軍中佐、つまりは提督です」


彼は制服も用意していた。男、提督は素直に慣れない制服を着ると猫の後を追って部屋を出る。


「ところでお前、名前は?」


「我輩は猫でありますよ、提督」


「名前はない…というわけか」


「私のことは単に中尉と。心配せずともすぐに慣れますよ。自分なんか、人間だった頃なんて思い出せません。猫ですからね」


二人は施設を出て迎えの車に乗る。これから艦娘を運用する施設、鎮守府に向かうらしかった。車内で中尉は艦娘の概要を説明する。


そもそもの発端はドイツ軍技術部で、拿捕した深海棲艦を解析した結果、艦娘という対抗兵器の開発に成功した。しかしその技術には謎も多く、さらに少女を兵器にするという非人道的な部分から、日本での運用は見送られていた。だが日に日に増す深海棲艦の脅威には何かしら対策を取らねばならず、この時新政府を樹立して大日本皇国と改名したこの国は、正規軍の整備を進めると共に艦娘の運用を始めた。


「彼女たちも元人間なので、性格や容姿などはそれに準ずることが多いです。しかし中身や記憶はあくまで軍艦なので…まあ習うより慣れろですね。会ってみないと分からない部分は多いです」


艦娘の運用基地、鎮守府に到着する。既に一人の艦娘が港で待機しているらしく、施設の確認は後にして先に港へ向かう。


軍艦の姿は無かった。ただそこには一人の少女が提督の着任を待っていた。艤装は着けておらず、外見は人間となんら変わらない。


「初めまして、吹雪です!」


少女の敬礼に提督は応える。中尉、と提督は問いかける。


―彼女がそうか


―はい


―こんな幼い少女がか


―艦娘になるのは基本的に志願制です。また駆逐艦クラスには若い女性のほうが適合しやすいらしいので


―大本営も墜ちたものだな


―人類の危機ですから


少女に聞こえぬように二人は話す。その間吹雪は提督の言葉を待ち続けた。


「おい」


「は、はい!」


声をかけられ、吹雪は背筋を伸ばす。


「吹雪、と言ったな」


「はい!」


「貴様、軍艦だな?」


「駆逐艦です!」


「そんな外見でもか?」


「…し、司令官も、あ、アライグマですよ?」


提督はハッとした。言われてみれば自分も人のことを言える外見ではない。隣を見れば中尉がニヤニヤとしている。吹雪も、必死に堪えてはいるが口元が笑っている。すると提督は声をあげて笑いだした。それにつられて吹雪も中尉も笑いだす。


「人類の為に人外が人外を使って人外と戦うとはな。笑えるじゃないか」


「ええ、まったく」


「やってやろうじゃないか。どうせ一度は死んだ身だ。なにも恐くなんてないぞ」


3人…2匹と1隻は庁舎に向かって歩きだす。日はすでに山へと沈んでいき、水平線には月が出始めていた。

序章 まだ青い空の下で

『こちらイーグルアイ、各隊状況報告を』


『アックス隊、スタンバイ』


『アーチャー隊、ソード隊スタンバイ』


「スピアー隊、スタンバイ。いつでも行けるぞ」


『よし、これより作戦を開始する。奴等を海の底に叩き戻してやれ。諸君らの武運を祈る。通信終わり』


周囲の戦闘機が一斉に散開する中、男はそのままの進路を取り続けた。目標はただ1つ、敵の中核を成す旗艦の撃沈である。


時は20××年、突如現れた「深海棲艦」と呼ばれる脅威により、人類は全ての制海権を奪われていた。各国が保有するシーレーンは完全に遮断され、経済はおろかその生活にさえ深刻な影響が出始めており、特に海洋国家においては存亡に関わる重大問題であった。


大日本皇国。この国もまた例外ではない。その国土は遥か昔から資源に恵まれず、さらに四方を海で囲まれているために領土を広げることもままならず、外国との貿易なしには生きていけない国だった。そんな国にとって深海棲艦の存在は敵以外のなにものでもなかった。


『アーチャー1よりスピアー1、呆けているのか? しっかり飛べ』


仲間の声で男は気持ちを入れ換える。


「すまん、少し考え事をしていた」


『おいおい頼むぞ? この作戦はあんたらにかかってるんだ。俺達が頑張って道を開いても、あんたらが撃墜されちゃ意味が無いんだからな』


『隊長ならいつもこんな調子ですよ。なにも心配ないです。ですよね? ラスカル』


僚機が横から会話に入ってくる。ラスカルというのはこの男のタックネームである。彼らパイロットは、基本このタックネームで互いを呼びあっている。


『お喋りはそこまでだ。アックス1交戦』

『早速迎撃部隊が上がってきたな。アーチャー1交戦』


深海棲艦側から迎撃機が上がり、戦闘機隊と空中戦を繰り広げる。しかし男の率いる部隊は高度を一気に下げ、その乱戦をすり抜けるように進んでいく。仲間が敵を引き付けている間に、彼らが敵の本隊を叩くという作戦だ。しかし事はそう簡単にはいかない。敵もそこまで馬鹿ではない。


『スピアー3、後ろにつかれた。くそ、何機か追って来やがった』


「落ち着け。速さではこっちが上なんだ振り切るぞ」


幸いなことに、敵の装備はかなり旧式であると言えた。ミサイルやチャフは積んでおらず、機関砲や無誘導の爆弾、さらには魚雷など、化物とも思えるような外観を除けば二次大戦機とさほど変わらない。しかし脅威はそこではない。


『アーチャー4が堕ちた! ちょこまかとうるさい奴等め』


『標的にミサイル着弾…くそ、なんで堕ちないんだ』


敵機はサッカーボール大程の大きさしかなく、攻撃を当てるのは至難の技であった。さらに異常なまでに頑丈で、ミサイルの一発や二発は容易に耐えてしまうのである。


『ラスカル、戦闘機隊が…』


「振り向くな。前だけ見てろ」


敵艦隊が見えてきた。敵の旗艦は空母ヲ級…と呼ばれるが、外見は空母のそれとは程遠く、どちらかと言えば人間に近い姿をしている。時折言語を使うらしく、これは空母に限った話ではないが、奴等を言い表すのに「人外であるなにか」という言葉を使う。つまり奴等は人間の姿をした兵器ではなく、兵器の力を持った生命体なのだ。突如として現れた奴等だが、依然として何処から現れて何のために戦うのか謎のままである。


「忌々しい深海棲艦め、俺達の海から出ていけ!」


スピアー隊が一斉に襲いかかり、対艦ミサイルを発射する。しかし激しい対空砲火により何発かは撃墜される。それを逃れて着弾したミサイルも、差ほど効果がなさそうだった。


『ラスカル…』


「もう一度だ。やるぞ!」


編隊を組み直し、再突入を図る。その間にも無線には悲痛な声が入ってくる。


『アックス3、イジェクト! イジェクト!』


『メーデー! メーデー! メーデー!』


男は舌打ちをした。今まで何度も奴等と戦ってきて、こちらが劣勢だというのは分かっていたが、こうも簡単にやられると面白くない。空母ヲ級は何度攻撃を受けても揺るがず、次々と迎撃機を上げる。


『こちらイーグルアイ、作戦は中止だ。繰り返す。作戦中止』


「スピアー1からイーグルアイ。寝言は寝て言え。まだ始まったばかりだ」


『友軍消耗率はすでに70%を越えている。作戦は失敗だ。これ以上の損害は出せない』


戦力の50%消耗は部隊の壊滅を意味する。このまま作戦を続行しても戦略的効果は認められない。


『今救援部隊を寄越している。それと合流した後この空域を離脱…』


そこで通信が途絶えた。管制機も撃墜されたらしい。こうなっては無事に逃げることさえ困難だった。


「スピアー1より各機、俺が奴等を引き付ける。その間にお前たちは退却し、救援部隊と合流しろ 」


『しかし…』


「早く行け。なに死ぬ気はない。お前らの迎えを待ってるからな」


『…了解です。ご武運を』


納得した仲間たちは翼を2、3度振ると、全速力で空域を離脱していった。さて、と男は群がる敵機に突っ込んだ。ミサイルが無くなった今、攻撃手段は機銃しかない。それでも敵の攻撃を引き付けるくらいならできる。それに男にはそれだけの技量かあった。機体を巧みに操り、味方の撤退を援護する。

しばらくしてから、そろそろ潮時か、と燃料を見ながら男は思った。

その時である。機体に大きな衝撃が走った。敵の艦砲射撃だった。片方の主翼はもげ、瞬く間に制御不能となった。もはや機体がどんな姿勢になっているのかさえ分からない。レーダーに目をやると、仲間が救援部隊を引き連れてこちらへ向かっているのがわかった。少し海水浴をするだけだ。そう男は思いイジェクションレバーに手を伸ばした。