アライグマ提督の艦これ日記

ゲーム、艦これのプレイ日記を小説にしたものです。

第3章 鎮守府近海哨戒任務 (1-1攻略)

早朝に吹雪、白雪、曙、子日は鎮守府正面海域へと繰り出した。本日最初の哨戒任務である。昨夜未明に敵駆逐艦の目撃情報が寄せられており、4人の間に緊張が走る。提督からは情報収集を優先し、交戦は避けるよう言われていた。


「とんだ腰抜けね、あのアライグマ」


初任務で戦闘を禁止され、曙は面白くなかった。


「司令官さんも私達のことを心配してるんだよ。無理に倒す必要もないし、敵を見つけたら素直に戻ろう?」


旗艦の吹雪が曙を含めた全員に言う。白雪もそれには賛成だった。錬度が低い今は相応の準備が必要だ。敵の戦力を分析し、作戦を立て直してからでも遅くはない。


「ちょっとは私達の力を信用して欲しいものだわ」


同時に、吹雪たちにはもっと自分に自信自信を持って欲しいと曙は思っていた。その時である。


「…! あれ、敵じゃない?」


突然縦陣二番手の子日が水平線を指差す。駆逐艦が一隻、まだ気付かれてはいない。


「あれが情報にあった駆逐艦かなぁ? 他に敵は見えないけど…」


子日は水平線を見渡すと先頭を進む吹雪を呼び止めた。


「どうするー? 帰る?」


勿論吹雪は帰投する予定だった。しかし旗艦が判断するよりもそれは早かった。縦陣最後尾、4番手からの砲撃。初弾が見事命中し、致命傷を与えた。驚いて一同は振り向くと、すでに曙は次弾を装填していた。続いて3番手白雪が主砲を発射する。この判断は正しいと言えた。一度攻撃を行ったら速やかに沈めてしまったほうがいい。さもないと、いるかもしれない敵本隊に通報される恐れがある。この判断が項を奏し、敵は反撃の間もなく撃沈された。全てが終わり、白雪は曙に詰め寄った。


「なんで、曙ちゃん、なんで…」


何故旗艦の判断を仰がなかったのか、何故待てなかったのか、何故撃ったのか。しかし曙は冷静だった。


「向こうは1隻、こっちは4隻。先に発見したのはこっち。たとえあれが通報艦だったとしても、通報される前に撃沈するだけの火力をこっちは持ってたのよ? 考えるだけ時間の無駄だわ」


曙は、初弾さえ撃てば後は皆続いてくれると思っていた。実際白雪は曙に続き、曙の言うとおり通報される前に撃沈した。正しい、と吹雪は思った。旗艦に確認するいとまのない場合、各個の判断で動いたほうが良い場合もある。もし曙が動かず、吹雪の判断が遅れたならば、今ごろ敵はこちらを発見し、本隊に通報されていたかもしれない。


「情報にあったのは恐らくさっきの奴でしょうね。帰投してもいいし、このまま任務を続行してもいいと思うけど、吹雪?」


「もう少し哨戒を続けよう。近くに敵本隊がいるかもしれない。この事態に反応するかどうかも見ておきたい」


そうこなくては、と曙は最後尾に戻り、縦陣を組み直す。しかしこの時点で敵はすでに動き始めていた。通報艦からの連絡が途絶えると同時に確認された黒煙、襲撃を受けたと判断するのは簡単だった。




「艦隊が帰投しました!」


連絡を受け提督は飛び出した。埠頭ではすでに中尉が出迎えており、被害の確認をしていた。無傷で戻ったものは、いない。


「…報告しろ」


被害は甚大といえた。吹雪が小破、白雪は中破、そして曙と子日が大破である。戦闘は敵のT字有利から始まる遭遇戦、軽巡1と駆逐艦3の艦隊だったという。発見は敵のほうが早かったため、やむ無く応戦した。敵にも少なからず損害を与えたものの、こちらの消耗が激しかったため退却したとのことだった。


「了解した。まずは休め」


最初の戦闘のことで怒られると思っていた吹雪は面食らった。提督も、戦闘を避けろという命令を守らなかったことには腹を立てていたが、今はそれどころではない。


「中尉!」


「すでに大本営に戦力の増強を要請しました。明日には支援艦隊が到着するかと」


それでいい、と提督は言う。先の戦闘についての説教は後でいい。敵の本隊と接触した以上、敵が戦力を増強する前に制海権をとらなければならない。提督は吹雪と白雪に再出撃の準備をしておくよう言い残し、執務室へと戻っていった。



翌日早朝、大本営から支援艦隊が到着した。駆逐艦時雨、涼風、荒潮、敷波である。ありがたいことに、このまま当鎮守府へと配置してくれるという。それよりも提督は気になっていることがあった。


「軽巡洋艦、大淀です。大本営より派遣されました」


大本営は鎮守府の監視要員を送ってきた。敵との接触があったということで、本部との直通の連絡線を確保するとともに、鎮守府が暴走行為に走るのを防ぐためだろう。ただでさえ提督は空軍出身ということで目をつけられており、加えて着任早々この事態である。彼女の所属はあくまで大本営であり、提督の指揮下には入らない。


「悪さはできなくなったな、中尉」


「おや、悪さをするおつもりでしたか?」


掃討部隊はすぐに編成された。吹雪を旗艦とし、白雪と支援艦隊を含めた6隻。昨日とは異なり情報も装備も十分である。特に心配はいらないだろう。提督は彼女らを見送ると、入渠用ドックへと足を運んだ。


子日からやや遅れてドックを出る曙。すでに掃討部隊出撃の知らせは受けており、それに参加出来なかったことを悔しがる。出入口では提督が待っていた。何を言われるかは大体予想できた。


「言いたいことがあるなら早く言えって顔だな。反省してるなら別になにも言わん」


「じゃあなによ」


「お前の行為は間違ってはない。現場でしか判断できないことというのはどうしてもあるからな。なんでもかんでも上の指示を待ってもらっては、それはそれで困る。しかしあの場面で通報艦を撃沈することは、それほどまでに急務だったのか、現場指揮官の吹雪に具申するいとまが無かったのか、それはお前もわかってるはずだ」


曙はなにも返さない。自分の行動に責任は持つが、その軽率さも否めなかった。功を焦るな、と提督は言う。


「お前のことは信用してるし、その実力を評価した上で俺たちは指揮している。現場にしか分からんこともあれば、指揮官にしか分からんこともある。要は互いの信頼が大切って話だ」


それだけだ、と提督は背を向けた。と思ったら言い残したことがあったと立ち止まる。


「今回の件を踏まえてお前の配置を変える。新しい戦力も入ったことだしな。近々辞令をだすから、一応覚えておいてくれ」


つまり降任か、と曙は思った。今回の越権行為を考えれば、やむを得ないと言えた。


「あの…クソアライグマ」


やり場のない悔しさを、曙はどうすることもできずに近くの壁を蹴った。



その日の午後には艦隊は帰投した。こんどはこちらが先に発見できた為、一方的に攻撃することができたらしい。敵は全滅し、こちらの損害は時雨が中破したのみだった。着任して1週間足らず、鎮守府正面海域の制海権はほぼ奪還された。ごくわずかな地域ではあるが、これは大きな前進だった。なにせ今までは敵の軽巡1隻沈めることもままならなかったのである。


「ご苦労だったな。皆ゆっくり休んでくれ」


提督たちと一緒に曙も艦隊を出迎える。達成感に満ちた皆の笑顔が、曙には眩しかった。


それから数日して曙は執務室に呼ばれた。あれからさらに戦力は増え、哨戒任務も交代制をとっていた。いよいよ艦隊から外されるのかと、曙の表情は暗かった。


「辞令、駆逐艦曙。第二哨戒隊旗艦を命ずる」


提督から文書を渡され、曙は目を丸くする。降任どころか昇任だった。


「先の件を踏まえて、お前には旗艦任務が妥当だと俺たちは判断した。しかし主力艦隊旗艦にはまだ能力が及ばない為、しばらくは哨戒隊旗艦として経験を積んでもらう」


「この…クソ提督!」


曙は初めて彼を「提督」と呼んだ。それが可笑しくて、提督も中尉も笑いだす。曙は姿勢を正すと綺麗に敬礼し、顔を真っ赤にして退室していった。



「あの空軍中佐、なかなかのやり手かもしれませんね」


廊下で話を聞いていた大淀は、大本営への定期報告書に一筆書き加えると静かにその場を立ち去った。