アライグマ提督の艦これ日記

ゲーム、艦これのプレイ日記を小説にしたものです。

第4章 初陣は仲間と共に (1-2攻略 前編)

「太平洋沿岸の制海権奪還だぁ?」


大本営から与えられた新たな命令に目を通す提督。

「特に本州南西方面の海域を重視し、関東関西の輸送ルート確立…大きく出ましたね」


中尉も後ろから覗き込んで言う。


「それができりゃ誰も苦労せんよ。大層な戦略目標を立てるのは構わんが、これは少し話が大きすぎやしないか?」


「大本営はあなた方の能力を高く買っているんです。その為に大型艦を優先的に配備させたんですよ?」


突き返された命令を、大淀は再び提督に返す。彼女の言うとおり、最近大幅に戦力が増強された。駆逐艦5隻に加えて重巡加古、軽巡では川内、神通、木曾があてられた。幸いにも陸に近い海域は深海棲艦の活動も比較的小規模で、時には陸軍や空軍の支援を受けることもできる。


「なにもあなた方だけでやれとは言ってません。瀬戸内海の鎮守府からも大規模戦力が投入される予定ですし、この作戦が成功すれば各部隊の指揮も上がります。あとこれは命令なので、それを拒否するなr…」


「あー、分かった分かった。やらせていただくよ」


提督は大淀を退室させ、机に海図を広げた。早速作戦を練らねばならない。とはいえ情報が足りない。


関西、大阪までの道程は長く、押さえるべき主な海域は浦賀水道、駿河湾、伊勢湾、紀伊水道に大阪湾である。この内浦賀水道はすでに制海権を手に入れている。


「駿河、伊勢湾は軽巡を主力とする戦力が相手だからなんとかなるとして、問題は紀伊水道と大阪湾だね。こっちは戦力が分かっていないし」


そう横から口を挟んだのは、先日中尉の秘書艦に抜擢された時雨である。提督はもちろん中尉も驚いた。


「ちょっと待て、どこからその情報を?」


「曙の哨戒隊だよ。浦賀水道、東京湾の哨戒任務は必要最低限に済ませて、少しずつ哨戒の範囲を広げていったんだ。もちろん戦闘は避けてね」


また勝手なことを、と提督は思ったが、ここは不問にすることにした。そうと分かれば話は早い。提督は吹雪に、川内と神通を呼んで来るよう命じた。


しばらくしてやって来たのは神通だけだった。川内はというと、頭を使うことは神通に一任したいらしい。というのも彼女の場合全てを夜戦中心に考えてしまうからである。安定の夜戦バカだな、と提督は思った。


「さて、我らが訓練担当艦に問う。我が艦隊の練度はいかほどのものか?」


「いかほど、というと例えが難しいですけど…」


神通には川内と共に鎮守府の訓練全般を担当してもらっていた。これがなかなか捗っていて、駆逐艦たちも熱心に彼女らの教育を受けていた。教官側も、川内が実戦派なら神通は理論派と、バランスもとれている。


「練度自体は高いレベルにあると思います。ただ相手が巡洋艦以上となると、あの子たちの火力不足は否めません。決戦海域に投入するには限界があると思います」


やはりそうか、と提督は艦隊の編成表を眺めた。重巡1に軽巡3、あと2隻は随伴させたい。吹雪と時雨が適任だろうが、秘書艦が同時に鎮守府からいなくなる事態は避けたい。


「随伴の駆逐艦については神通に任せたいが、いいか?」


勿論だと神通は答える。教え子のことは教える側がよく理解している。下手に誰かに選ばれるより、自分で選んだほうが安心もできた。



「成る程、結構大きな作戦になるんだね 」


川内は神通から渡された辞令書に目を通す。二人は遠くまで見渡せる高台から駆逐艦が訓練する様子を眺めていた。二人が不在の間は木曾が面倒を見てくれていた。新たに着任した駆逐艦は深雪、磯波、漣、文月、初霜。随伴艦の一人は時雨をあてるとして、もう一人はこの中から選びたいと考えていた。


「文月さんですかね」


「私もそう思う」


二人の意見は同じだった。五人とも筋は悪くなく、このまま訓練を続ければ問題なく前線には出れるだろう。しかし文月だけ動きに迷いが見えた。きっと他人と争うということに慣れていないのだろう。そんな彼女こそ、一度は実戦を経験して欲しかった。


「それにしても、あいつらの教育を兼ねて出撃することを考えてるなんて、随分と余裕だね」


「姉さんこそ、同じ考えですよね?」


「私は神通ほど考えてないよ。あいつらの中で文月だけ夜戦が苦手なんだ。だったら本当の夜戦に連れて行って、夜戦の楽しさを教えてあげなきゃ」


クスクスと神通は笑う。結局は同じ考えである。


「あと、旗艦の話なんですが…」


「加古でしょ。重巡だし」


「それが断られました。めんどくさいの一点張りで」


ああ、と川内は笑う。そういえば彼女はそういう性格だった。


「じゃー神通やりなよ」


「川内姉さんは?」


「夜戦に集中できなくなるじゃん。私はパスだね」


ヒラヒラと川内は手を振って断る。神通は下で訓練している木曾に目をやった。しかし彼女も誰かの指揮下に入ったほうが実力が発揮できるタイプである。結局自分しかいないか、と神通は提督から渡された編制表に名前を書き込んでいった。


かくして神通を旗艦とする主力艦隊は駿河湾の攻略に向かった。その間に提督たちは瀬戸内海側の味方と連絡を取り合わなければならない。同時に陸、空軍にも支援をお願いしたいところだった。こちらは中尉が担当してくれる。吹雪たちには引き続き鎮守府近海の警備にあたってもらう。


「ところで他の鎮守府の状況はどうなんだ?それなりの戦果はあげているのか?」


恐らくこのことに詳しいであろう大本営所属の大淀に問う。


「正直、それぞれの持ち場を守るので精一杯です。奴等が陸に上がってこないのだけが救いですね。ひどい所だと鎮守府が爆撃を受けているみたいですから」


「ひどいな…今回共闘する瀬戸内海側の鎮守府は?」


「あそこは優秀な提督がいますから、期待していいですよ。ただ…」


大淀の言葉に提督は首を傾げる。


「随分前から艦娘を運用している方でして、装備が旧式化しています。それでいて更新を拒むので、今はご隠居って形で敵の少ない瀬戸内海を担当されてて…」


過度な期待はするな、ということである。結局大阪まではこっちが単独で道を拓くしかなさそうだ。



「川内姉さん、どうですか?」


川内は首を横に降る。彼女が偵察機をあげてから1時間、敵発見の報は入ってこない。現在誰も電探を積んでおらず、敵の早期発見は航空機だけが頼りだ。


「敵がいないってのはいいことじゃん」


「加古さん、そういうわけにも行かないんです。今回は航路の確保が目的なので、敵を撃沈して安全を確保する必要があるわけで…」


「じき雨も降る。偵察機はそろそろ帰したほうがいいかな」


川内は偵察機と連絡をとり、帰投を命じた。


「飛行機なんていらねぇよ。最後に頼りになるのは自分の目だけだ」


先頭の木曾は言うが、神通は敵の戦力が分からないまま戦闘に入りたくなかった。その時である。


「ん? 入電。敵艦隊発見、近い!」


帰投中の偵察機から報告が入る。ほぼ同時に木曾が水平線上に敵艦を視認した。軽巡1と駆逐艦2の小規模な艦隊である。おそらく前衛の艦隊だろう。


「反航戦になりますね。砲雷撃戦用意!」


神通の掛け声と共に艦隊は増速する。火力はこちらのほうが上、撃ち負けることはないはずである。一番射程の長い加古が初弾を放ち、続いて軽巡どうしの撃ち合いとなるが、お互いにの位置はほぼ真正面、効果は薄い。すれ違う瞬間が勝負となる。


「砲撃は加古たちに任せて、僕らは雷撃に集中しよう。狙いは先頭の軽巡および続行する駆逐艦、いいね?」


時雨が魚雷管を取り出して文月に言う。しかし文月にとっては初めての実戦、落ち着いていられるはずはない。両艦隊がすれ違い、至近距離での撃ち合いが始まる。加古はその火力で敵軽巡を圧倒し、軽巡たちは駆逐艦を狙う。砲撃の中、時雨が魚雷を発射した。見事縦陣2番手の駆逐艦に命中し、後続の駆逐艦はそれを避けるために陣形を崩す。こうなるといい的である。しかし加古のほうは軽巡を仕留め切れなかった。損傷こそしてるものの、継戦能力は未だ健在である。


「文月、とどめだ!」


川内が振り返り、縦陣最後尾の文月に叫ぶ。しかし文月の撃った魚雷は外れていた。緊張や迷い、恐怖が彼女の手元を狂わせたのかもしれない。次弾装填は間に合わない。慌てて主砲を取り出すも、敵軽巡の砲弾が飛び交う中、とても冷静に照準を合わせることなんてできない。


「痛っ!」


至近弾を受け、小破する。初めて負う戦闘の傷が彼女の心に追い討ちをかけた。その時である。


「しっかりしなさい! 訓練通り、教わった通りに構えるんです!」


神通だった。訓練の時に何度も受けた叱責、聞き慣れた声が文月を安心させる。一度大きく息を吸い、しっかりと敵を見る。

撃つ。外れた。弾を込め、撃つ。至近弾だ。大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせる。敵の攻撃も止むことはないが、文月は怯まない。その間も仲間が支援射撃をしてくれる。また弾を込め、撃った。


「命中、敵艦撃沈!」


時雨が叫ぶ。文月の砲撃は当たり所が良かったようだ。敵最後尾を走っていた駆逐艦はすでに木曾と川内が撃沈していた。周囲にはこれ以上敵影はない。


戦闘を終え、文月の周りに皆が集まった。小破こそしたものの、初陣にしては上々である。


「どうだい文月、初めての戦闘は?」


時雨が文月に手を伸ばした。


「僕らは一人で戦っているワケじゃない。君を訓練した神通や川内も、共に訓練した僕もいる。恐怖は皆で打ち消して、皆で敵を倒せばいい。ミスだって皆でカバーするから、遠慮することもないんだよ」


文月は時雨の手を取った。震えていた手はいつの間にか治まり、いつもの暖かさを取り戻す。


これから進む海域には分厚い雨雲が立ち込めている。今後は偵察機も飛ばせず、遭遇戦になるかもしれない。作戦はまだ始まったばかりだ。