アライグマ提督の艦これ日記

ゲーム、艦これのプレイ日記を小説にしたものです。

序章 まだ青い空の下で

『こちらイーグルアイ、各隊状況報告を』


『アックス隊、スタンバイ』


『アーチャー隊、ソード隊スタンバイ』


「スピアー隊、スタンバイ。いつでも行けるぞ」


『よし、これより作戦を開始する。奴等を海の底に叩き戻してやれ。諸君らの武運を祈る。通信終わり』


周囲の戦闘機が一斉に散開する中、男はそのままの進路を取り続けた。目標はただ1つ、敵の中核を成す旗艦の撃沈である。


時は20××年、突如現れた「深海棲艦」と呼ばれる脅威により、人類は全ての制海権を奪われていた。各国が保有するシーレーンは完全に遮断され、経済はおろかその生活にさえ深刻な影響が出始めており、特に海洋国家においては存亡に関わる重大問題であった。


大日本皇国。この国もまた例外ではない。その国土は遥か昔から資源に恵まれず、さらに四方を海で囲まれているために領土を広げることもままならず、外国との貿易なしには生きていけない国だった。そんな国にとって深海棲艦の存在は敵以外のなにものでもなかった。


『アーチャー1よりスピアー1、呆けているのか? しっかり飛べ』


仲間の声で男は気持ちを入れ換える。


「すまん、少し考え事をしていた」


『おいおい頼むぞ? この作戦はあんたらにかかってるんだ。俺達が頑張って道を開いても、あんたらが撃墜されちゃ意味が無いんだからな』


『隊長ならいつもこんな調子ですよ。なにも心配ないです。ですよね? ラスカル』


僚機が横から会話に入ってくる。ラスカルというのはこの男のタックネームである。彼らパイロットは、基本このタックネームで互いを呼びあっている。


『お喋りはそこまでだ。アックス1交戦』

『早速迎撃部隊が上がってきたな。アーチャー1交戦』


深海棲艦側から迎撃機が上がり、戦闘機隊と空中戦を繰り広げる。しかし男の率いる部隊は高度を一気に下げ、その乱戦をすり抜けるように進んでいく。仲間が敵を引き付けている間に、彼らが敵の本隊を叩くという作戦だ。しかし事はそう簡単にはいかない。敵もそこまで馬鹿ではない。


『スピアー3、後ろにつかれた。くそ、何機か追って来やがった』


「落ち着け。速さではこっちが上なんだ振り切るぞ」


幸いなことに、敵の装備はかなり旧式であると言えた。ミサイルやチャフは積んでおらず、機関砲や無誘導の爆弾、さらには魚雷など、化物とも思えるような外観を除けば二次大戦機とさほど変わらない。しかし脅威はそこではない。


『アーチャー4が堕ちた! ちょこまかとうるさい奴等め』


『標的にミサイル着弾…くそ、なんで堕ちないんだ』


敵機はサッカーボール大程の大きさしかなく、攻撃を当てるのは至難の技であった。さらに異常なまでに頑丈で、ミサイルの一発や二発は容易に耐えてしまうのである。


『ラスカル、戦闘機隊が…』


「振り向くな。前だけ見てろ」


敵艦隊が見えてきた。敵の旗艦は空母ヲ級…と呼ばれるが、外見は空母のそれとは程遠く、どちらかと言えば人間に近い姿をしている。時折言語を使うらしく、これは空母に限った話ではないが、奴等を言い表すのに「人外であるなにか」という言葉を使う。つまり奴等は人間の姿をした兵器ではなく、兵器の力を持った生命体なのだ。突如として現れた奴等だが、依然として何処から現れて何のために戦うのか謎のままである。


「忌々しい深海棲艦め、俺達の海から出ていけ!」


スピアー隊が一斉に襲いかかり、対艦ミサイルを発射する。しかし激しい対空砲火により何発かは撃墜される。それを逃れて着弾したミサイルも、差ほど効果がなさそうだった。


『ラスカル…』


「もう一度だ。やるぞ!」


編隊を組み直し、再突入を図る。その間にも無線には悲痛な声が入ってくる。


『アックス3、イジェクト! イジェクト!』


『メーデー! メーデー! メーデー!』


男は舌打ちをした。今まで何度も奴等と戦ってきて、こちらが劣勢だというのは分かっていたが、こうも簡単にやられると面白くない。空母ヲ級は何度攻撃を受けても揺るがず、次々と迎撃機を上げる。


『こちらイーグルアイ、作戦は中止だ。繰り返す。作戦中止』


「スピアー1からイーグルアイ。寝言は寝て言え。まだ始まったばかりだ」


『友軍消耗率はすでに70%を越えている。作戦は失敗だ。これ以上の損害は出せない』


戦力の50%消耗は部隊の壊滅を意味する。このまま作戦を続行しても戦略的効果は認められない。


『今救援部隊を寄越している。それと合流した後この空域を離脱…』


そこで通信が途絶えた。管制機も撃墜されたらしい。こうなっては無事に逃げることさえ困難だった。


「スピアー1より各機、俺が奴等を引き付ける。その間にお前たちは退却し、救援部隊と合流しろ 」


『しかし…』


「早く行け。なに死ぬ気はない。お前らの迎えを待ってるからな」


『…了解です。ご武運を』


納得した仲間たちは翼を2、3度振ると、全速力で空域を離脱していった。さて、と男は群がる敵機に突っ込んだ。ミサイルが無くなった今、攻撃手段は機銃しかない。それでも敵の攻撃を引き付けるくらいならできる。それに男にはそれだけの技量かあった。機体を巧みに操り、味方の撤退を援護する。

しばらくしてから、そろそろ潮時か、と燃料を見ながら男は思った。

その時である。機体に大きな衝撃が走った。敵の艦砲射撃だった。片方の主翼はもげ、瞬く間に制御不能となった。もはや機体がどんな姿勢になっているのかさえ分からない。レーダーに目をやると、仲間が救援部隊を引き連れてこちらへ向かっているのがわかった。少し海水浴をするだけだ。そう男は思いイジェクションレバーに手を伸ばした。