アライグマ提督の艦これ日記

ゲーム、艦これのプレイ日記を小説にしたものです。

鎮守府 人事記録簿 2

○曙


鎮守府哨戒隊旗艦。


特型18番艦、綾波型8番艦。マニラ湾にて空襲を受け、着底。


元地方の女学生。警察官である父親の影響からか正義感が強く、幼い頃から海軍には憧れていた…と公式記録にはある。


口は悪いが、素直で積極性もある。なんだかんだで提督を信頼している。でもクソ提督。



○白雪


吹雪の僚艦。


吹雪型2番艦。ダンピール海峡にて沈没。


元都内の女学生。吹雪とは幼馴染みで、彼女を追って海軍へ入隊。艦娘の適性が高いと評価され抜擢…と公式記録にはある。


吹雪と仲が良いが、それが人間の記憶によるものなのか、艦の記憶によるものなのかは未だ不明。あるいは両方かもしれない。艦娘としての能力は高い。



○子日


鎮守府マスコット


初春型2番艦。アリューシャン方面作戦従事中沈没。


元都内の戦災孤児。ある海軍軍人が彼女を引き取り、育てた。その影響で艦娘に志願…と公式記録にはある。


とにかく元気。過去は振り返らない主義。戦闘は遊びの延長程度に捉えている。怪我しても元気。作戦失敗でも元気。



○大淀


大本営から派遣された監視要員。


大淀型1番艦。呉軍港空襲において大破着底。


元海軍特別警察隊所属。適性があったのと、前線に立ちたい想いから艦娘に志願…と公式記録にはある。


提督や中尉の言動を監視する毎日。大本営とは密に連絡を取る。本当は艦娘らしく戦いたいが、我慢。



○時雨


中尉の秘書艦。


白露型2番艦。ヒ87船護衛中沈没。


元地方の女学生。その真面目な性格からか学校でも委員長や生徒会長を任されることが多かった。人の役に立ちたいから、と艦娘に志願…と公式記録にはある。


クソ真面目。性格もよく、それでいて実力もあるため、中尉から秘書艦に抜擢された。



○荒潮


駆逐艦の諜報員


朝潮型4番艦。ビスマルク海海戦において沈没。


元都内の有名私立に通う令嬢。大人に囲まれた生活を送った影響か、言動も大人びている。他人とは違った経験をしたい、という想いから艦娘に志願…と公式記録にはある。


なにを考えているか分からず、抜け目ない。情報収集が得意らしく、駆逐艦たちからは頼りにされている。



○涼風


鎮守府の元気玉。


白露型10番艦、海風型4番艦。ポナペ島北東にて沈没。


元浅草の有名飴細工職人の娘。その影響は言動に色濃く出ている。親の跡を継ぐはずだったが、その前に色々経験したいと海軍へ入隊した…と公式記録にはある。


子日とはまた異なるタイプの、皆の元気の素。意外にも手先が器用。頭を使うことは苦手のようだ。



○敷波


駆逐艦の経理担当艦


吹雪型12番艦、綾波型2番艦。ヒ72船団護衛中沈没。


元地方の女学生。時雨と出身校は同じだが、知り合いではない。真面目な性格。綾波を追って海軍へ入隊、その後艦娘に抜擢…と公式記録にはある。


非常にしっかり者。特にお金関係には細かいらしく、駆逐艦たちのお財布的存在(良い意味で)

第3章 鎮守府近海哨戒任務 (1-1攻略)

早朝に吹雪、白雪、曙、子日は鎮守府正面海域へと繰り出した。本日最初の哨戒任務である。昨夜未明に敵駆逐艦の目撃情報が寄せられており、4人の間に緊張が走る。提督からは情報収集を優先し、交戦は避けるよう言われていた。


「とんだ腰抜けね、あのアライグマ」


初任務で戦闘を禁止され、曙は面白くなかった。


「司令官さんも私達のことを心配してるんだよ。無理に倒す必要もないし、敵を見つけたら素直に戻ろう?」


旗艦の吹雪が曙を含めた全員に言う。白雪もそれには賛成だった。錬度が低い今は相応の準備が必要だ。敵の戦力を分析し、作戦を立て直してからでも遅くはない。


「ちょっとは私達の力を信用して欲しいものだわ」


同時に、吹雪たちにはもっと自分に自信自信を持って欲しいと曙は思っていた。その時である。


「…! あれ、敵じゃない?」


突然縦陣二番手の子日が水平線を指差す。駆逐艦が一隻、まだ気付かれてはいない。


「あれが情報にあった駆逐艦かなぁ? 他に敵は見えないけど…」


子日は水平線を見渡すと先頭を進む吹雪を呼び止めた。


「どうするー? 帰る?」


勿論吹雪は帰投する予定だった。しかし旗艦が判断するよりもそれは早かった。縦陣最後尾、4番手からの砲撃。初弾が見事命中し、致命傷を与えた。驚いて一同は振り向くと、すでに曙は次弾を装填していた。続いて3番手白雪が主砲を発射する。この判断は正しいと言えた。一度攻撃を行ったら速やかに沈めてしまったほうがいい。さもないと、いるかもしれない敵本隊に通報される恐れがある。この判断が項を奏し、敵は反撃の間もなく撃沈された。全てが終わり、白雪は曙に詰め寄った。


「なんで、曙ちゃん、なんで…」


何故旗艦の判断を仰がなかったのか、何故待てなかったのか、何故撃ったのか。しかし曙は冷静だった。


「向こうは1隻、こっちは4隻。先に発見したのはこっち。たとえあれが通報艦だったとしても、通報される前に撃沈するだけの火力をこっちは持ってたのよ? 考えるだけ時間の無駄だわ」


曙は、初弾さえ撃てば後は皆続いてくれると思っていた。実際白雪は曙に続き、曙の言うとおり通報される前に撃沈した。正しい、と吹雪は思った。旗艦に確認するいとまのない場合、各個の判断で動いたほうが良い場合もある。もし曙が動かず、吹雪の判断が遅れたならば、今ごろ敵はこちらを発見し、本隊に通報されていたかもしれない。


「情報にあったのは恐らくさっきの奴でしょうね。帰投してもいいし、このまま任務を続行してもいいと思うけど、吹雪?」


「もう少し哨戒を続けよう。近くに敵本隊がいるかもしれない。この事態に反応するかどうかも見ておきたい」


そうこなくては、と曙は最後尾に戻り、縦陣を組み直す。しかしこの時点で敵はすでに動き始めていた。通報艦からの連絡が途絶えると同時に確認された黒煙、襲撃を受けたと判断するのは簡単だった。




「艦隊が帰投しました!」


連絡を受け提督は飛び出した。埠頭ではすでに中尉が出迎えており、被害の確認をしていた。無傷で戻ったものは、いない。


「…報告しろ」


被害は甚大といえた。吹雪が小破、白雪は中破、そして曙と子日が大破である。戦闘は敵のT字有利から始まる遭遇戦、軽巡1と駆逐艦3の艦隊だったという。発見は敵のほうが早かったため、やむ無く応戦した。敵にも少なからず損害を与えたものの、こちらの消耗が激しかったため退却したとのことだった。


「了解した。まずは休め」


最初の戦闘のことで怒られると思っていた吹雪は面食らった。提督も、戦闘を避けろという命令を守らなかったことには腹を立てていたが、今はそれどころではない。


「中尉!」


「すでに大本営に戦力の増強を要請しました。明日には支援艦隊が到着するかと」


それでいい、と提督は言う。先の戦闘についての説教は後でいい。敵の本隊と接触した以上、敵が戦力を増強する前に制海権をとらなければならない。提督は吹雪と白雪に再出撃の準備をしておくよう言い残し、執務室へと戻っていった。



翌日早朝、大本営から支援艦隊が到着した。駆逐艦時雨、涼風、荒潮、敷波である。ありがたいことに、このまま当鎮守府へと配置してくれるという。それよりも提督は気になっていることがあった。


「軽巡洋艦、大淀です。大本営より派遣されました」


大本営は鎮守府の監視要員を送ってきた。敵との接触があったということで、本部との直通の連絡線を確保するとともに、鎮守府が暴走行為に走るのを防ぐためだろう。ただでさえ提督は空軍出身ということで目をつけられており、加えて着任早々この事態である。彼女の所属はあくまで大本営であり、提督の指揮下には入らない。


「悪さはできなくなったな、中尉」


「おや、悪さをするおつもりでしたか?」


掃討部隊はすぐに編成された。吹雪を旗艦とし、白雪と支援艦隊を含めた6隻。昨日とは異なり情報も装備も十分である。特に心配はいらないだろう。提督は彼女らを見送ると、入渠用ドックへと足を運んだ。


子日からやや遅れてドックを出る曙。すでに掃討部隊出撃の知らせは受けており、それに参加出来なかったことを悔しがる。出入口では提督が待っていた。何を言われるかは大体予想できた。


「言いたいことがあるなら早く言えって顔だな。反省してるなら別になにも言わん」


「じゃあなによ」


「お前の行為は間違ってはない。現場でしか判断できないことというのはどうしてもあるからな。なんでもかんでも上の指示を待ってもらっては、それはそれで困る。しかしあの場面で通報艦を撃沈することは、それほどまでに急務だったのか、現場指揮官の吹雪に具申するいとまが無かったのか、それはお前もわかってるはずだ」


曙はなにも返さない。自分の行動に責任は持つが、その軽率さも否めなかった。功を焦るな、と提督は言う。


「お前のことは信用してるし、その実力を評価した上で俺たちは指揮している。現場にしか分からんこともあれば、指揮官にしか分からんこともある。要は互いの信頼が大切って話だ」


それだけだ、と提督は背を向けた。と思ったら言い残したことがあったと立ち止まる。


「今回の件を踏まえてお前の配置を変える。新しい戦力も入ったことだしな。近々辞令をだすから、一応覚えておいてくれ」


つまり降任か、と曙は思った。今回の越権行為を考えれば、やむを得ないと言えた。


「あの…クソアライグマ」


やり場のない悔しさを、曙はどうすることもできずに近くの壁を蹴った。



その日の午後には艦隊は帰投した。こんどはこちらが先に発見できた為、一方的に攻撃することができたらしい。敵は全滅し、こちらの損害は時雨が中破したのみだった。着任して1週間足らず、鎮守府正面海域の制海権はほぼ奪還された。ごくわずかな地域ではあるが、これは大きな前進だった。なにせ今までは敵の軽巡1隻沈めることもままならなかったのである。


「ご苦労だったな。皆ゆっくり休んでくれ」


提督たちと一緒に曙も艦隊を出迎える。達成感に満ちた皆の笑顔が、曙には眩しかった。


それから数日して曙は執務室に呼ばれた。あれからさらに戦力は増え、哨戒任務も交代制をとっていた。いよいよ艦隊から外されるのかと、曙の表情は暗かった。


「辞令、駆逐艦曙。第二哨戒隊旗艦を命ずる」


提督から文書を渡され、曙は目を丸くする。降任どころか昇任だった。


「先の件を踏まえて、お前には旗艦任務が妥当だと俺たちは判断した。しかし主力艦隊旗艦にはまだ能力が及ばない為、しばらくは哨戒隊旗艦として経験を積んでもらう」


「この…クソ提督!」


曙は初めて彼を「提督」と呼んだ。それが可笑しくて、提督も中尉も笑いだす。曙は姿勢を正すと綺麗に敬礼し、顔を真っ赤にして退室していった。



「あの空軍中佐、なかなかのやり手かもしれませんね」


廊下で話を聞いていた大淀は、大本営への定期報告書に一筆書き加えると静かにその場を立ち去った。

第2章 指揮官はアライグマ

提督が着任してから2日目の朝、やはり目が覚めても体はアライグマのままだった。これを喜ぶべきなのかどうか、現実を受け入れられずため息が出る。


「司令官、起きましたか?」


扉をノックされ、構わないから入れと提督は答える。


「お早うございます。昨晩はよく眠れましたか?」


「ああ、まだ夢でも見てるのかと思うくらいにな」


駆逐艦吹雪、提督直属の秘書であり現在保有する唯一の戦力である。指揮官が着任してようやく活躍できると思っているのだろう、朝から目はやる気に満ち溢れている。親切なことに朝食まで用意してくれていた。


しかし着任してすぐ出撃というわけにはいかない。彼女は数少ない貴重な戦力であり、みすみす失うわけにはいかない。まずは現状の把握である。


「それでしたら、中尉が指令書をくれました。大本営から当鎮守府に課せられた任務だそうです」


提督は吹雪からいくつかの書類を渡される。こちらの戦力が微々たるものというのは上も把握しているらしく、他鎮守府との足並みを揃える必要は無しというのは提督も嬉しかった。当面は鎮守府近海における制海権の奪還に向けた戦力の増強及び錬成に励めとのことだった。ありがたいことに新しい艦娘志願者がいれば優先的に回してもらえるらしい。


「ところで中尉はどうした。さっきから姿が見えないが…」


「中尉なら朝早くに出かけました。新しい仲間が着任するので、その出迎えに行くそうです」


そう答える吹雪は嬉しそうであった。戦力面だけでなく、生活においても1人というのは寂しいのだろう。提督にとっても戦力増強は嬉しい話である。艦隊も組めないようでは、どうせ現時点でできることなどない。


改めて提督は指令書に目を通す。この鎮守府は太平洋に面した湾内にある。鎮守府近海の制海権の奪還とは、この湾内のそれを奪還しろということだ。裏を返せば、もはや人類は港もまともに使えない程深海棲艦に追い詰められているのである。艦娘という存在が反撃の要だと言うが、その効果もこの目で見ないことにはにわかに信じられなかった。


そうこうしている内に中尉たちが帰ってきたのが執務室の窓から見えた。それを確認するや否や、待っていられない吹雪は執務室を飛び出した。本来ならここで着任を待っておきたいが、最初の着任者だしこちらから出迎えようと、提督も後に続く。


中尉の後に見える人影は3人、そこで吹雪があることに気付き、駆け出した。


「白雪ちゃーん!」


その声で気付いたのか、一人が吹雪に向かって走りだし、二人は抱き合う。


「吹雪ちゃん、会えて嬉しいよ!」


「私も! まさか同じ部隊だなんて思わなかったよ!」


喜ぶ二人の元に遅れて提督と中尉たちが追い付く。


「なんだ、知り合いか?」


艦の記憶か、それとも人間の記憶か…


「ん? 吹雪ちゃん、そのアライグマ…」


「司令官さんだよ、白雪ちゃん」


「え、本当⁉」


慌てて少女は敬礼し、提督は苦笑いで答礼した。きっとこれから新人が来る度にこんな反応を見なければならないのだろう。


「駆逐艦白雪です! よろしくお願いします」


「ああ、よろしく。中尉、後ろの二人は?」


提督の声で少女が二人中尉の前に出る。


「初めまして、子日だよ!」


「駆逐艦、曙よ。なに? アライグマが指揮官なの?」


不満そうな表情をする曙に、提督も顔をしかめる。


「だ、駄目だよ曙ちゃん。外見はこんなだけど司令官さんなんだから…」


「こんな」で悪かったな、と提督は吹雪を睨む。それに気付いたのか吹雪はすぐに頭を下げた。提督は後ろでニヤニヤと笑う中尉に声をかけた。


「おい中尉、こっちの人事についてこいつらは何も聞かされてないのか?」


「道中私が説明しましたよ。もっとも、猫の言うことなど聞く耳持たぬといった具合でしたが」


それもそうか、と提督は視線を曙に戻した。彼女の気持ちも分からないではないが、舐められるのは面白くない。


「曙と言ったな? 悪いが俺がここの指揮官だ。見ての通りの姿だし、おまけに空軍出身で艦隊の運用もままならん。そこの中尉のほうがよっぽどいいだろうよ。だがな、ここは軍隊だ。気に入ろうが気に入るまいが、部下は上司を選べん。逆もまた然りだ。俺に言えるのはただひとつ、人類のために全力を尽くせということだけだよ」


意外にも曙は提督の話を大人しく聞いてくれた。表情こそ変わらないが、一応の納得はしてくれたのだろう。


「当然よ。指揮官がクソである以上、私達が頑張るしかないじゃない」


「そういうことだ。ま、よろしく頼む」


口は悪いが、素直ではある。これくらいが扱い易い、と提督は思った。きっと元は吹雪と同じ普通の少女だろう。しかし曙には軍人としての素質を備えている。叩けば叩くほどよく成長するだろう。


「さて、頭数も揃ったところだ。4人には明日から哨戒任務についてもらう」


「待ってましたー!」


元気よく子日が応える。


「着任早々現場配置で申し訳ないが、人手も足りん 。もう少しすれば戦力も増強されるだろうから、そうなれば訓練や演習もしてやれる。いま少し辛抱してくれ。以上、解散」


吹雪は3人を寮に連れていく。こうして見れば本当にただの少女たちだが、明日には彼女らを戦地へ投入しなければならない。最低限の訓練を受けているとは言え、やはり不安だった。


「まあここ最近当鎮守府付近で深海棲艦は確認されていません。遭遇したとしても駆逐艦クラスでしょうし、哨戒任務なら問題ないでしょう」


中尉はそう言うが、何故か提督は安心が出来なかった。